誰が男を殺したのか?「藪の中」芥川龍之介

山中小説・エッセイ

今回紹介する本は「藪の中」芥川龍之介です。

あなたは「未解決事件」というものをご存じですか?
「未解決事件」とは、犯人の特定などができず解決できていない事件のこと。

「犯人を見つける手がかりがない」「そもそもなぜそんなことが起こったのかわからない」場合、その事件は「未解決事件」として扱われることになります。

今回紹介する「藪の中」は、あなたにその「未解決事件」を思わせる謎を残していく小説になります。

  • 奇妙な小説を読みたい
  • 謎が残ってもやもやとしてもかまわない

そんなあなたはぜひ、この「藪の中」を読んでみてください。

真相は最後までわからない

あの男を殺したのはわたしです。

「藪の中」 芥川龍之介

「藪の中」の魅力は、

真相がわからない謎

です。

「誰が本当のことを言っているのか?」という謎が解かれることのないまま、物語は終わることになります。

「藪の中」の登場人物は、次の7人
なお、一部に見慣れない固有名詞があるのは、この物語の舞台が「平安時代末期」のためです。

  • 木こり
  • 旅法師
  • 放免ほうめん(=警官のようなことをしている元犯罪者)
  • おうな(=老女)
  • 盗賊の多襄丸たじょうまる
  • 男の死霊

「藪の中」の物語は、この7人が語る「藪の中で発見された男の死体」についての証言で構成されています。
そして、この物語のメインとなるのは「多襄丸たじょうまる」「女」「男の死霊」の3人。

「藪の中で発見された男の死体」には何があったのか?
7人の登場人物それぞれの視点で、この「殺人事件」で起こったことが語られることになるのです。

「藪の中」と著者の紹介

「藪の中」の著者は芥川龍之介

芥川龍之介は小説家。 その名を冠した芥川賞(芥川龍之介賞)でも有名な作家です。

明治時代の1892年に誕生。1914年に「老年」を書いて作家活動をはじめ、1919年には大阪毎日新聞社へ入社。創作活動に専念しています。
その後、1927年に「ぼんやりとした不安」から服毒自殺をしています。

そして「藪の中」は、芥川龍之介が1922年に発表した短編小説

平安時代末期の説話集である「今昔物語」のうちの一話をベースにして創作した小説とされています。

「藪の中」のストーリー

霧の中の森

「藪の中」の舞台設定

この「藪の中」の物語は、登場人物の1人である「木こり」の証言からはじまります。

この物語の7人の登場人物のうち「木こり」「旅法師」「放免ほうめん」「おうな」の4人の証言が明かすのは、舞台設定でしかありません。
この4人が語るのは、次のようなこと。

  • 藪の中で男が、胸を刀で刺されて死んでいた
  • 死んだ男は、馬に乗った妻と共に歩いていた
  • 盗賊の多襄丸たじょうまるが捕まった時、死んだ男の持ち物を持っていた

つまり、ここまでは事件に直接関わっていない部外者の話でしかないのです。
彼らの証言により舞台設定が明かされた後、「殺人事件」の当事者たちの証言がはじまります。

誰が男を殺したのか?

「殺人事件」の当事者のうち、はじめに証言をするのは盗賊の多襄丸たじょうまる
彼が語るのは、次のようなことです。

  • 男を殺したのは自分(多襄丸たじょうまる)である
  • 男をだまして捕らえた後、女を強姦した。
  • 男を殺す気はなかったが、「2人の男に恥は見せられない」という女に頼まれ、男の縄をほどいて決闘をした。
  • 結果として自分が勝ち、男を殺した。
  • 女はいつの間にか消えていた。

「殺人事件」の犯人と疑われる多襄丸たじょうまるはこのように語ったのです。

普通であれば「殺人事件」の謎はこれで解決となるのでしょうが「藪の中」の物語はこれでは終わりません。

次に語るのは女(=男の妻)
彼女は、次のように語ります。

  • 夫を殺したのは自分(女)である
  • 強姦された後、自分は気を失った。
  • 気づくと多襄丸たじょうまるは消えており、あとには冷たい目をした夫が残った。
  • 夫は目の前で強姦された自分に侮蔑の態度を崩さず、耐えかねた自分は心中を提案した。
  • 「殺せ」という夫に小刀を突き刺し、殺した。
  • 自分は死のうとしたが、死にきれなかった。

女が話したのは、多襄丸たじょうまるとは矛盾する「自分が夫を殺した」という物語。

そして「藪の中」の物語はさらに続きます。

最後に語りだすのは、なんと殺された男の死霊
巫女の口を借りて現世に戻った男は、次のように語ります。

  • 自分(男)は、自殺した
  • 妻は強姦された後、多襄丸たじょうまるに口説かれ、多襄丸たじょうまるの妻となることに同意した。
  • その後、妻は自分を殺すよう、多襄丸たじょうまるに懇願した。
  • 多襄丸たじょうまるはその懇願を聞いて態度を変え、妻を蹴倒すと自分に「妻を殺すかどうか」を聞いてきた。
  • 妻は多襄丸たじょうまるの隙をついて逃げ、多襄丸たじょうまるも逃げた。
  • 残された自分は、絶望の中で妻が落とした小刀を見つけ、自らの胸に突き刺した。
  • 胸に残った小刀は、誰かがやってきて抜いていった。

「殺人事件」の当事者たちは、こうして三者三様の結末を語り、物語はここで幕を閉じるのでした。

「藪の中」の真相とは?

「藪の中」は男の死霊が証言をしたところで終わり「殺人事件」の謎の答えが明かされることはありません。
「真相がわからない」あるいは「登場人物が語っていることが真実とは限らない」というところが、この物語の魅力でもあり、著者の意図していたところでもあるのでしょう。

ところで、真相がわからないこの「藪の中」という作品について、ある一つの解答を出した作品があります。
それは黒澤明監督が1950年に発表した「羅生門」という映画。

芥川龍之介にも「羅生門」という作品がありますが、その作品との直接の関係はなく、「藪の中」を原作とした映画になっています。

映画「羅生門」で示される答えは、黒澤明監督の出した「ある一つの解答」でしかありませんが、その内容はリアリティのある、納得させられるものとなっています。

「藪の中」を読み「真相のわからない謎」に心惹かれたあなたにはぜひ、黒澤明監督の示した「ある一つの解答」についても、確認してみてください。

「藪の中」のまとめ

「藪の中」の紹介でした。

ふつうであれば、小説の中の「謎」の答えは小説の中で提示されます。しかし、この小説は「謎」を「謎」のままにしておくところに、その魅力があります。
さらに短編ということもあり、強い印象が残る作品となっています。

あなたもぜひこの「藪の中」を読んで「真相のわからない謎」の魅力を味わってみてください。

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