驚異のバッタと闘うバッタ博士。「バッタを倒しにアフリカへ」前野ウルド浩太郎

モーリタニアの砂漠趣味・教養・雑学

今回紹介する本は、「バッタを倒しにアフリカへ」前野ウルド浩太郎です。

現在、アフリカでバッタが大量発生しているのをご存じでしょうか。
蝗害こうがい」ともいわれる深刻な農業被害を引き起こしている大量発生中のバッタの名は「サバクトビバッタ」。
70年に一度の大量発生ともいわれている現状であり、今後の食糧不足の原因にもなりかねない事態だとのことです。

今回紹介する「バッタを倒しにアフリカへ」は、サバクトビバッタをアフリカで研究する著者が、自身のバッタ研究について書いた本です。

  • バッタの大量発生の実態について知りたい
  • アフリカでの昆虫研究に興味がある

そんなあなたにオススメの本になっています。

「バッタの研究書」というより「バッタ研究者の自伝」とでもいうべきこの本。
ぜひ手に取り、奇妙なバッタ博士の奮闘と、人類の脅威となりえるサバクトビバッタの生態に触れてみませんか。

サバクトビバッタの驚異

本書は、人類を救うため、そして自身の夢を叶えるために、若い博士が単身サハラ砂漠に乗り込み、バッタと大人の事情を相手に繰り広げた死闘の日々を綴った一冊である。

「バッタを倒しにアフリカへ」前野ウルド浩太郎

「バッタを倒しにアフリカへ」の魅力は、

奇妙なバッタ研究者と共に経験するサバクトビバッタの驚異

です。

この本の著者は「ファーブル昆虫記」で有名なファーブルにあこがれ、昆虫研究者となったバッタ博士。
本書は、著者がアフリカのバッタ研究所での生活をスタートさせるところからはじまります。

そこで描かれるアフリカでの生活や、バッタへの対策の規模はとても日本では想像がつかないものばかりです。

例えば、著者が研究を開始したバッタ研究所があるのは「モーリタニア」という国です。
多くの日本人は、イスラム教を国教とするこのアフリカの国を知らないはず。

そしてまた、サバクトビバッタの群れが発生すると、大量のドラム缶に入った殺虫剤で対策をとることになります
本書にはこのドラム缶の写真が掲載されているのですが、この殺虫剤でどれほどのバッタが殺せるのか、日本での日常から離れすぎていてまったくピンときません。

著者がモーリタニアに渡った当時は、すでにサバクトビバッタの研究者ではありましたが、室内での研究が中心で、最前線でのバッタ対策は知らない状態だったとのこと。

そんな著者が実際に遭遇するバッタの群れは、

  • 地平線の彼方まで埋め尽くすほどの規模
  • 時速20kmほどで数百メートルの飛行を続ける

という異様なものでした。

著者はそんなサバクトビバッタの生態を知り、想像を絶するバッタの大群に立ち向かっていきます。
と、同時に、無収入の危機にさらされながらも、本物のバッタ研究者になろうとアフリカで奮闘をし、成長していくことになります。

そんな常人では決して経験ができない、想像すらできないことを伝えてくれる本となっているのです。

「バッタを倒しにアフリカへ」と著者の紹介

「バッタを倒しにアフリカへ」の著者は、前野ウルド浩太郎さん

前野ウルド浩太郎さんは、日本の昆虫学者。
弘前大学で昆虫学を専攻し、サバクトビバッタの研究をはじめたそうです。現在は国際農林水産業研究センターの研究員を務められています。

その名前にある「ウルド」とはモーリタニアの言葉で「〇〇の子孫」という意味。
モーリタニアでの研究活動が認められ、恩人から贈られたミドルネームをペンネームとして用いているとのこと。

そして「バッタを倒しにアフリカへ」は2017年に出版されたサバクトビバッタの研究について書いた本です。

この本で描かれるのは著者のアフリカでの活動や、そこで研究した昆虫たちとの日々。多くの写真が使われていて読みやすい本となっています。

……と書くと、昆虫を見るのが苦手な人は躊躇するかもしれませんが、ご安心ください。
ものすごく昆虫が苦手なぼくでも、途中の「落とし穴にかかった大量のゴミムシダマシ」の写真以外は何とかなりました。

大量にひしめき合うバッタに、妙な現実感のなさを感じる。
本書ではそんな不思議な写真を見ることができます。

「バッタを倒しにアフリカへ」の内容

モーリタニアの植物

サバクトビバッタの相変異

本書の戦い(研究)の相手となっているのは、サバクトビバッタ。このサバクトビバッタがどのような虫かというと、人類の脅威とも呼べる存在です。

アフリカの半砂漠地帯に生息するこのバッタは、しばしば大量発生して「蝗害こうがい」というバッタによる甚大な農業被害を引き起こしているそうです。
その規模について本書では、

その被害は聖書やコーランにも記され、ひとたび大発生すると、数百億匹が群れ、天地を覆いつくし、東京都くらいの広さの土地がすっぽりとバッタに覆い尽くされる。

「バッタを倒しにアフリカへ」前野ウルド浩太郎

と紹介されています。

このサバクトビバッタに限らず、生物学的に「バッタ」と呼ばれる昆虫の持つ驚くべき能力は、「相変異」という変身能力です。

「孤独相」と呼ばれる、バッタがまばらにしか生息していない状態では、彼らの体は緑色をしており、群れなどは作りません。
農業にも被害を及ぼさない普通の昆虫でしかない。

しかし「群生相」と呼ばれる、高密度の状態で発育したバッタは、黄色や黒の体色となり、群れを作って活発に飛び回り、農業へ被害を与えるはじめるとのこと。

サバクトビバッタの群生相への対処としては、まだ移動能力の低い幼生のうちに、殺虫剤で殺すということが行われているそうです。
しかし、日本の3倍もの広い国土を持つモーリタニアで、バッタの対処をするスタッフは100人足らずしかいない。

そのためすべてはカバーできず、著者が対峙するような成虫の群れが発生してしまうことになるのです。
本書ではこのサバクトビバッタの農業被害を抑えるために、著者が研究に奮闘する姿が描かれることとなります。

バッタ博士とモーリタニア

そんな本書の著者はバッタ博士とも呼ばれ、幼いころの夢は「バッタに食べられたい」という奇妙なもの。

このバッタ博士がモーリタニアで過ごす研究の日々は、実際のところ苦労の連続だったと想像されますが、本書で描かれるのは、なんだか充実していて楽しそうな毎日です。

運転手である相棒のティジャニや、親身なサポートを与えてくれるバッタ研究所のババ所長といった、現地の人との出会い。
そしてバッタが現れない時期に行っていたゴミムシダマシの研究や、ハリネズミの飼育。

「日本学術振興会海外特別研究員」としてモーリタニアで研究をしていた著者は、その任期の2年間で実績をあげなければその後の収入は保障されていませんでした。
言葉の通じない海外で、多くの苦労やプレッシャーがあったはずですが、本書ではあまりそういったことは触れられません。

著者にもなじみのないモーリタニアの地で、楽しく研究を続ける著者の姿がこの本の魅力の一つでもあります。
そしてそんな著者も苦しんだ無収入の危機も乗り越え、目的だったサバクトビバッタの大群と対峙する本書の後半は、なんだか感慨深いものさえ感じられます。

その研究結果そのものには、本書では触れられません。
しかしその研究の過程自体が、大きな魅力にあふれているのです。

バッタの大量発生の現在

この記事の冒頭で紹介しましたが、サバクトビバッタの蝗害こうがい」は、2020年3月時点で現在まさに発生している最中です。
この「蝗害こうがい」について、すこしネットで調べてみましたが、

「アフリカで発生したサバクトビバッタの群れが、インドを越えて中国へ迫っている」

という多くの情報がある一方、

「サバクトビバッタが中国に迫るなんてのはデマで、バッタは高い山を越えられない」

という情報が見られます。

デマだという情報については、岡沢秋さんのブログ「現在位置を確認します。」の記事「イナゴの群れが中国に到達! というクソみたいなデマが流れていたので、バッタの進行の見方を解説する」が詳しいです。

実際にバッタの群れの情報を紹介しているサイト「Locust Watch」を見ると、中国やインドのバッタ被害についてはあまり触れられていない模様です。

どうやらデマの可能性が高そうですが、このデマが流されたのは「昆虫」という、これまでぼくがまったく興味を持ってこなかった分野。
本書を読み、バッタについて調べようと思わなければデマの可能性にすら気づけなかったはずです。

サバクトビバッタというバッタがアフリカにいて、相変異により農業被害を引き起こすことがある。
そしてこの脅威にさらされているアフリカでは、日々多くの人がバッタ大量発生の予防や、対策に追われている。

そんなアフリカにおける現実や、知りえなかった世界の姿を教えてくれる本書。
まことしやかな情報の多い現代において、得た情報を鵜呑みにしない、というきっかけを与えてくれる本でもあるのかもしれません。

「バッタを倒しにアフリカへ」のまとめ

「バッタを倒しにアフリカへ」の紹介でした。

個人的にものすごく苦手な「昆虫」について書かれた本書ですが、バッタの奇妙な生態や、想像しがたい群れの規模にはただ驚かされるばかり。
そしてバッタの群れという巨大な敵に挑む著者の奮闘は、あなたに多くの発見を与えてくれるはずです。

あなたもぜひこの本を読み、人類の脅威になりえるサバクトビバッタの生態と、その問題に立ち向かうバッタ博士の魅力に触れてみてください。

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